自作小説

迷ってへたれて抱きしめて#20

今日の卒業式練習は全体の通し練習だった。授業がなくなったので、長い時間が確保できるようになったためだろう。開会式の宣言から始まって、式の進行通りに事が進んでいく。   僕たち生徒は長い時間、拘束されることとなった。寒い体育館で、立ったり座っ
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #19

10 目覚めてから、息苦しいことに気がついた。胸から下あたりが重たい。そして少し暑い。身動きの取りにくさにピンと来て横を見ると、思った通り、そこにあいつの姿はなかった。そして、掛け布団が明らかに膨らんでいる。 なぜ上に乗ったのか。布団の中に
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #18

私は、ソファーの上からお兄ちゃんの後ろ姿を見ていた。お兄ちゃんはさっきとらメイトで買ってきた本を読んでいる。特に何かを言ってくることはなく、ただ、黙って床に座っている。   でも私には分かっていた。お兄ちゃんには何もかもがお見通しだというこ
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #17

二階に上がると僕は、那都葉の部屋をノックした。   返事はない。拗ねてるな、こりゃマジで。「入るぞ」 ドアを開けた。「あれ、いないな……」 が、そこに那都葉の姿はなかった。   どこ行ったんだ、あいつ。   トイレも見てみたが鍵はかかってお
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #16

――少しして、月野さんとは逆方面へと向かう電車がホームに到着した。乗り込んでから、ポケットの震えに気が付いて携帯を取り出す。『今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。……もし良ければ、次回、楽しみにしてますから』 月野さんだった
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #15

7 こども図書館でしばらくを過ごし、僕たちは純粋な子どもの可愛さに触れた。どうやら月野さんはよくこの図書館に来ているようで、「あ、おねーちゃんだ!」 彼女を見つけて声をかけてくる子どもがいたくらいだ。「月野さんの家、ここから近いの?」「いえ
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #14

「……つまり、本当の買い物はここだったということですか?」「まあ、そう、ですね」「ここ……」 月野さんはとらメイトの店内をじっと見つめた。外からでも、普通の本屋さんとの違いは分かったことだろう。笑顔を浮かべた可愛い女の子がたくさんいる。すご
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #13

兎束さんの視線が僕から外れた。 名前を呼ばれたことよりも、そのことが僕を振り向かせた。 どうしてここに――そんな言葉が出かかった。 一時間後に駅で待ち合わせをしているはずの月野さんがそこにいた。小さな可愛らしい鞄を体の前で持ち、立ち尽くして
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #12

思わず名前が口に出た。 まさか……まさかとらメイトの前で彼女と出会うことになろうとは。「あれ? 秋本君?」 向こうもまた、僕に気付いたようだ。「やっぱり秋本君だ。びっくりした、まさかこんなところで会うなんて」 お腹に紙袋を抱えた彼女は、僕と
自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #11

会いたい……?「僕に……ですか?」 自分の耳を疑った。思わず聞き返すと、『…………はい』 躊躇いがちに、そう返ってきた。 すぐには何も答えられなかった。イエスともノーとも言うことができず、黙るしかない。どうするべきか、判断に困った。それはそ
スポンサーリンク