朗読シナリオ

自作小説

みせ

「本当にあった。酔っ払いの戯れ言じゃなかったのか」 電車を降りて二分ほど。お世辞にも栄えているとは言い難がたい寂れた駅の近くに、その店はあった。都内から一本で来れる……と言えば聞こえはいいけれど、実際は、乗っている人を根こそぎふるい落とした
自作小説

SSDF

時計の針がとっくにてっぺんを超えた、深夜も深夜。 仕事を終えた俺は、脳内で暴れ狂う内なる自分のハイな気分に引っ張られながら、自室のパソコンの前で闇雲に躍り散らかしていた。『ひゃっふううううううううう!!!!!!!』 フリーランスになって半年
自作小説

支える手 <「雪原の歌姫コンテスト」特別書き下ろし>

「ひなたー、もうタクシーくるぞー」「待って待って! もう少し!」「今日はラジオだぞ。顔も出ないし、最悪そのままでも……」「そういうわけにはいかないのっ!」 玄関で待つ俺に、ひなたの声が飛んでくる。自室の鏡とにらめっこしているのであろうその声
自作小説

帰路をプレゼントとともに

真っ暗な闇を切り裂くように、車のヘッドライトが前方を照らしている。まっすぐ伸びるだけの退屈な道にはろくな明かりもないが、曲がりなりにも舗装されているだけマシだろう。あっちで散々経験してきた、ちょっと走っただけで一般人ならゲロッちまうような道
自作小説

無知のオルタナティブ

今日という日で世界が終わり、明日がやってこないとしたら、あなたは何をしますか? 友達みんなと一緒に楽しく過ごしますか? 家族とゆっくり終末を待ちますか? それとも、どこか遠くへ旅行して、美しい世界の最期を目に焼き付けますか? わたしは―― 
自作小説

姉ちゃんの処方箋

意識を取り戻してすぐ、違和感に気づいた俺は、はあ、と、ため息をついた。 目を開けると、「見知った天井」がそこにあった。手術室でよく見る、物々しい無影灯が、しかし光を放つことなく、こちらに向いている。体はベッドに拘束されていて動かせず、起き上
自作小説

月と私

半分ほど開いた障子の向こう、東の夜空に満月が輝いている。その光と、間接照明を頼りに、私は、ようやく手に入れることのできた本を読む。 わずか一畳ほどしかない、部屋と呼ぶにも狭すぎるこの一室は、しかし、私がこの物件を購入する決め手となった空間だ
自作小説

異端審問

緋色ひいろの服をまとった枢機卿すうききょうが目の前に立ち、背後では、甲冑かっちゅうの兵士がこちらを睨にらみつけている。 枢機卿の手に握られた羊皮紙には、私の罪が書かれているはずだ。 こうなる可能性は予期できていた。だからこそ私は、できるだけ
自作小説

ストレス発散法

――チリン『五分後に予定されたミーティングがあります。会議室のリンクはこちらです』 ――チリン『清水しみず 利香りかからメッセージです』<リーダー、V社案件ですが、アサインメンバーについてお話ししたいのでスケジュール仮押さえしました。定時後
自作小説

村の住人

「ここもだめ、か……」 降りしきる雨の中、傘を差す作業着の男は困ったように後頭部を掻いた。視線の先では、崩落したトンネルが道を塞いでいる。かすれたトンネル銘板の文字が、過ぎ去った年月を表しているようだった。「ヤマさん、見てくださいこれ。バツ
スポンサーリンク