南條愛乃はどこまでも優しい -花奏歌 ~Kanade Uta~-

2022年の7月が終わりを迎えようという日、戻り梅雨と言われた悪天候も乗り越えた古都・京都の日差しは、これが夏だと言わんばかりに照りつけていた。

全国で最も猛暑日が多いというこの土地は、この日もぐんぐんと気温が上がり、最高で36.5度を記録。それでも意外と湿度はそれほど高くなく、木陰に入り、風が吹くと少しだけ涼しくて、そんなところもなんだか、この都の良さな気がした。

――ということで今回は、暑さと、歴史と、そして日常が交差する京都府京都市でおこなわれた、南條愛乃初のオーケストラコンサート『花奏歌~Kanade Uta~』昼の部に参加した記録をお届けする。

※本公演はアーカイブ配信が決定しているため、セットリストなど、ネタバレを避けたい場合は注意していただくようお願いいたします。

コンサート概要

今回のオーケストラコンサートは、“芸術ニジム古都・京都発 アニメ/ゲーム エンターテインメント音楽の展覧会”をコンセプトとする音楽イベント「Ani Love KYOTO」のコンテンツとして開催された。

同イベントは、昨年、2021年に初開催。昨年は、人気アニメ「ソードアート・オンライン」の楽曲たちをオーケストラアレンジで演奏した「ソードアート・オンライン フィルムオーケストラコンサート2021」を開催した他、アニメ「ラブライブ!」で南條愛乃と共演した声優・内田彩さんを出演者に迎え、彼女のソロ楽曲をオーケストラアレンジでお届けした「内田彩Symphonic Cocert~en and ett~」を開催している。

今回はその第2弾。「Ani Love KYOTO 2022」ということで、めでたくもその出演アーティストに決まったのが南條愛乃というわけだ。

今回のコンサートでは、ファイナルファンタジーXIVで関わりのあるピアニスト・大嵜慶子さんを音楽監督に迎えている。彼女の手によってオーケストラアレンジされた南條ソロ楽曲は、Style KYOTO管弦楽団の音で表現され、コーラス・SAK.さんのバックアップのもと、披露された。

そのパフォーマンスはまさに「素晴らしかった」の一言だったのだが――それではいよいよ、詳しい内容について記していきたい。

『花奏歌』昼の部

会場である「ロームシアター京都」のメインホールに入場すると、舞台上には深紅の幕がかかっていた。時折なんらかの楽器音がその向こうから聞こえ、期待感を少しずつ高めていってくれる。

こうしたコンサート、ライブではおなじみの注意事項アナウンスなども流れ、今か今かと開始を待ちわびていたのだが、開演時間を少し過ぎた14時5分頃、ついにその時がやってきた。

ホール内が暗転し、闇に包まれると、紅い幕が上がり、そして、舞台は幻想的な光に照らされた。だが、楽団と、南條愛乃の姿は、まだ、ぼんやりとしか見えない。それもそのはず、スクリーンのような幕が一枚、未だ舞台上を覆っており、うっすらと影を映すに留めていたのだ。

そんななかで、静寂を打ち破り、最初の音が紡がれた。オーケストラコンサート昼の部、まさに最初の1曲として選ばれたのは、「サヨナラの惑星」だった。

同曲は、2019年のバースデーライブにて、ストリングスをまじえたアコースティックver.で披露されたことがある。あのときは、バイオリン2名、ビオラ1名、チェロ1名という構成で、それでも鳥肌が立ったのを覚えているが、今回はその比ではない。60名ほどの構成で演奏されるオーケストラver.は圧巻で、全身に感動が広がり、比喩でなく震えた。掴みとしてこれ以上ない楽曲と言えるだろう。

結果として、1曲目から、会場は盛大な拍手で包まれることになる。逆に言えば、それだけ期待値が急上昇したと言えるわけだが、続く2曲目は、その期待を真っ向から受け止められる力を持ったあの曲だった。――「believe in myself」だ。

南條ソロの中で屈指の人気を誇るこの曲は、その歌詞が持つメッセージ性のため、どのライブで披露されても泣く者が現れる名曲である。そんな楽曲が、「サヨナラの惑星」が作り上げた空気の中、管弦楽団の力強くも優しい音で演奏され、南條愛乃の歌声で披露されたらどうなるか。……結果は書くまでもないだろう。この2曲によって、すでに今回のオーケストラコンサートは成功したと言って良いものになっていた。

再び大拍手に包まれる会場。ようやく落ち着くと、最初のMCに入る。その瞬間、空気が弛緩したのは気のせいではない。場所が歴史あるコンサートホールであろうと、荘厳な管弦楽団を背中に従えていようと、しゃべりだしたらいつもの「なんじょーさん」なのが、南條愛乃ソロの良さだ。

我々もどこか緊張していたが、やはり南條さんも緊張していたようで、それをはねのけるように笑う。一気にほっこりムードになると、そのまま次のパートに移った。

「君のとなり わたしの場所」から始まった次パートは、「ゼロイチキセキ」「黄昏のスタアライト」と続いた。猫目線で歌われる「君のとなり わたしの場所」は、元から優しい音色がさらに優しくアレンジされ、南條愛乃自身にも笑顔が浮かぶ。続く「ゼロイチキセキ」も同じ雰囲気で続き、明るく楽しい雰囲気で会場が満たされる頃には、それまでは緊張感ゆえに見られなかったペンライトの光も見え始めていた。音に合わせて揺れる光。会場との一体感が出てくると、しかし、それまでの空気を一変させるように「黄昏のスタアライト」が、熱く、豪華な音と強い音圧で奏でられた。だが、一変した空気は決して壊れてはいない。むしろ、圧倒的な格好良さを誇る同楽曲に、会場の一体感はさらに増した気がした。

その後のMCで、南條愛乃はその格好良さを「ラスボスみたい」と表現していた。雰囲気、そして音に圧倒されたという意味では、確かにラスボス級だっただろう。

そんなラスボスに続いてのパートは、打って変わって、しっとりとした楽曲が続く。「and I」、「涙流るるまま」「藪の中のジンテーゼ」の3曲だ。

「and I」は、先日のバースデーライブで披露された記憶が新しく、改めて、歌詞が体に染み渡った。再び増加傾向に転じたコロナウィルスの状況を鑑み、おそらくはコンサートに来るのを諦める判断をしたファンもいた中、それでも「ともに生きてる」ことを感じられた。

続く「涙流るるまま」は、同じくグリザイアシリーズの楽曲である「サヨナラの惑星」同様、歌詞がストレートに切ないのもあってか、オーケストラアレンジされると、より心に響く。それはもしかすると、オーケストラのバックアップによって、歌っている南條愛乃本人の気持ちがより強く引き出されているからなのかもしれないが、楽器の音と、悲しみを歌い上げる南條愛乃の声が合わさると、楽曲名どおり、涙を誘われるのだ。次曲「藪の中のジンテーゼ」で、和の雰囲気や、ジャズアレンジによる別要素が加わったことで、涙を流さずには済んだが、このパートは、このコンサート内でも、特に、南條愛乃の歌声が持つ力とオーケストラの力を感じた部分だったかもしれない。

この頃には、南條愛乃とオーケストラ演奏の相性が良いことを、誰もが感じていたことだろう。これまで、幾度となくアコースティックライブをやってきた彼女だけに、予見できたことでもあったが、予想以上に感情を動かされるコンサートになっていた。だからこそ、続くMCで、慶子先生やSAK.さん、Style KYOTO管弦楽団の皆さんが紹介されたときには、ひとりひとりに感謝を伝えたい気持ちで全員が拍手をしていた。

本記事内で特筆こそしてこなかったが、この感動の理由には、もちろん、慶子先生のオーケストラアレンジの力があり、SAK.さんのコーラスの力があった。MC内でもあったが、SAK.さんのコーラスはあまりにも綺麗で、そのハーモニーは、普段の八木さんのコーラスとは比べるべくもなく(もちろん、我々は八木さんのコーラスが大好きである)、まさに「縁の下の力持ち」という言葉がぴったりだった。彼女のコーラスがあったからこそ、歌に厚みが出ており、南條愛乃の歌声の良さがさらに引き出されていたと断言できる。そして慶子先生に至っては、もはや言うまでもない。楽曲をこんなにも素敵にアレンジし、音楽監督兼指揮者兼ピアノとして、素晴らしい演奏を牽引していただいた。この感謝は言葉で言い表せるものではなく、ゆえに、誰もが拍手を届けたのだろう。

とにかく、1曲1曲が圧巻のコンサートだったが、それ故に時が経つのは早く、次パートが最後となった。

最後を飾るパートは、「リトル・メモリー」「飛ぶサカナ」「EVOLUTiON:」の3曲だった。ここには、昼の部のみで披露される楽曲を含むらしく、今回諸事情で夜の部までは参加できなかった私は、どの曲が限定曲だったのかをアーカイブ配信で確認するつもりだ。

「リトル・メモリー」は、優しくもあり、どこか寂しくもあり、そして楽しくもある不思議な楽曲だ。それがオーケストラアレンジされると、私の感覚では、少し楽しさが増しているような気がした。もちろん、人によって、また、聴くタイミングによってこの印象は変わるかもしれないが、おもちゃ箱のような、懐かしくも楽しい音が聞こえた気がして、気づけばリズムに体が揺れていた。

続く「飛ぶサカナ」は、個人的に好きな楽曲ということもあって、オーケストラver.が聴けたことに感無量だった。この曲は、私がかつて、仕事に疲弊し、腐っていたときに、新しい環境へと飛び出す勇気をくれた楽曲だった。この曲がなければ、私は転職する踏ん切りがついていなかったかもしれない。ある意味で人生を変えた楽曲だけに、特別な想いで聴かせていただいた。

そして最後を飾ったのは「EVOLUTiON:」だ。この曲は、先日のバースデーライブでもトリを飾った楽曲だったが、比較的新しいシングルだけに、今回のセットリストに入っていたのには驚いた。コロナもあって、そもそも原曲バージョンを披露した回数もそれほど多くない気がするのだが、やはり、南條ソロ初のアニメOPということで、思い入れもあるのかもしれない。もちろん、OPらしく楽曲にパワーもある。しっとりとした印象の強い南條ソロが、これから先、そのイメージにとらわれすぎず、幅広く活動を続けていくためには、この曲が必要ということなのかもしれなかった。もちろんそれは勝手な印象に過ぎないが、そんな決意と力強さを感じるアレンジとなっている気がして、非常に格好良い締めとなった。

『花奏歌』昼の部 アンコール -必然の歌-

曲数としては11曲と、決して多くはないながら、ここまで、圧倒的なパフォーマンスを見せつけてくれたオーケストラコンサート。感情を端から端まで揺らされるような緩急でもって組み上げられた、圧巻のセットリストの力を証明するかのように、最後の曲である「EVOLUTiON:」が終わって会場が暗転しても、拍手が鳴り止むことはなかった。

いつまでも、いつまでも続く拍手。そうしてそれはいつしか規則正しい手拍子となり、声を奪われたライブでは恒例のアンコール要求となった。

それに導かれるように、一度は退場したSAK.さん、慶子先生、そして南條さんが再び舞台に戻ってくる。アンコールへの感謝と共に告げられたのは、南條さんと、大嵜慶子先生の出会いのエピソードだった。

概要でも書いたように、この2人は、オンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」を通して知り合っている。一緒にラジオ「南條愛乃・エオルゼアより愛をこめて」に出演したこともあり、それだけ、2人にとって「ファイナルファンタジーXIV」はなくてはならない要素だ。

だからこそ、このオーケストラコンサートで、この曲を歌うことは必然だったのかもしれない。

同ゲーム内「朱雀征魂戦」にてBGMとして使用されている楽曲「千年の暁」。南條愛乃が演じる「朱雀」として歌うこの曲を披露するにあたり、ゲーム未プレイ者に向けて、楽曲についての説明がおこなわれた。その背景には、この曲の歌詞の難しさ、聴いたことがないファンへの配慮など、様々理由はあると思われたが、大切なこの楽曲を、意味を知った上で聴いて欲しいという想いも伝わってくる説明だった。

私も未プレイなため、この場で説明を記載するのは避けるが、気になる方は、アーカイブ配信で南條さんからの説明を聞く他、各自で調べて欲しい。

ともかく、ざっくりながらストーリーを把握して聴いた「千年の暁」は、歌詞の意味が理解できるようになったことで、曲の魅力が何倍にも増していた。実は私は、ゲーム未プレイながら、曲自体は購入して聴いていたのだが、今回のコンサートを通じて、断片的とは言え曲への理解が深められたのは嬉しかった。この曲は、ゲーム音楽だからなのか、それとも気合いの表れか、これまで以上に色々な音が含まれている気がして、非常にオーケストラとの相性が良い1曲のように思えた。この先、機会があればゲームもしっかりとプレイしたいものだ。

(白状すると私は、FF14自体は挑戦したのだが、ゲームが下手すぎて序盤も序盤で挫折している。そのため、できる日がやってくるかはわりと怪しい……)

『花奏歌』昼の部 アンコール -南條愛乃とファン-

南條愛乃と慶子先生、そして会場の光の戦士たちにとって大切な楽曲の後は、本当の本当にラストパートとして、南條ソロファンにとって様々な思い出と紐付く2曲が披露された。

1曲目は、「今日もいい天気だよ」

このブログでは何度も説明しているような気がするが、この楽曲の名前は、南條愛乃が立ち上げたブログタイトルを由来としており、そこから「東京1/3650」用の楽曲として採用された曲である。

「たとえ雨の日でも、それを話題にしてみんなと気持ちを共有できるなら“いい天気”だよ」

憂鬱な雨すらもちょっと好きにさせてしまうこの楽曲は、これまで何度もライブで披露され、南條愛乃と、ファンをつなぐ曲として歌われてきた。「共有」することの喜びを「共有」してきたこの曲は、コロナ禍でも、おそらく多くのファンの支えになったはずだ。

生活が大変でも、「大変だよね」と共有する。わかり合いながら、時折ライブやイベントで集まり、楽しい時間を共有する。そうして形作られてきたのが、南條愛乃と、我々ファンとの関係なのだ。

ライブでこの曲が披露されると、私はいつも、その時の、楽しい時間を心に刻むようにして聴いている。今回のコンサートでもそれは同じで、この時間を共有できている幸せを感じながら聴かせていただいた。

――そして。

そんな大切な楽曲の後、本当の最後として歌われたのは――

「・R・i・n・g・」だった。

2017年のアルバム「サントロワ∴」に収録され、ツアータイトルにもなったこの曲もまた、その名のとおり、南條愛乃と我々の「輪」を感じさせてくれる楽曲だ。

率直に感想を書くと、何だかとても久しぶりに聴いた気がした。まあ実際久しぶりだったのだろうが、期間以上に、長く聴いていなかったように感じた。おそらく、ライブやイベントに参加できなかったというだけでなく、プライベートでも、この曲を聴いていなかったのだ。いつの間にかこの曲が、他の曲におされて埋もれてしまっていたことに気づかされて、ハッとした。

誤解を恐れず書けば、今回、「・R・i・n・g・」のイントロが流れるまで、私はこの曲の存在を忘れていたのだと思う。最後の曲をいくつか予想していたのだが、全く思い浮かんでいなかったのは事実だ。

だからこそ、「・R・i・n・g・」が最後だと分かったとき、「久しぶり」だと思った。新曲も確かに良い。良いのだが、そうだ、我々にはこの曲がいたじゃないか。そう思った。

そして、この曲を最後に持ってきてくれたことが嬉しかった。忘れていた身で言えたことではないが、南條さんが「輪」を大切に思ってくれている証拠なのだと思えた。

本当にあの人はどこまでも優しい。今回、未だ声を奪われているので「AI no Ring」を叫ぶことはできなかったが、確かに、南條愛乃から愛を感じた。

まとめ

今回、どういう経緯で南條愛乃が「Ani Love KYOTO 2022」の出演者に選ばれたのかは分からない。だが、どんな理由であれ、選んでくれたどなたかには感謝したい気持ちでいっぱいだ。

もちろん私は「なんじょるオタク」なので、ライブやイベントに参加する度に「最高だった」と言うのだが、今回のコンサートは最高だったと同時に、「すごかった」と言いたい。前述したが、本当に、オーケストラと南條愛乃の相性が良すぎるのだ。

可能な限り毎年開催して欲しい。他の曲のアレンジも聴きたい。そう渇望せずにはいられないコンサートだった。

これも前述したとおりだが、今回は京都という場所柄と、その他もろもろの諸事情により、昼の部のみの参加となった。アーカイブ配信のお知らせがあったからこそ、夜の部を諦めておとなしく帰ってきたのだが、そのお知らせがなかったら、私は、新幹線のチケットやら明日の予定やらを全てぶった切って、夜の部の当日券を買っていただろう。それくらい良かった。

今回、悔しくも参加できなかった方々においては、ぜひともアーカイブ配信をご視聴いただきたい。まあ、言うまでもないかもしれないが。

ふぁいん

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