自作小説

迷ってへたれて抱きしめて #10

――結局、全て食べ終えるまで頭をなでさせ続けられた。一枚一枚、だ。あまり安易な気持ちで那都葉をなでない方が良いことを知った僕だった。 しかし那都葉のおかげで空腹はある程度満たされた。夕飯までもつだろう。とりあえず、風呂だ。「ふんふんふん……
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迷ってへたれて抱きしめて #9

5  結局、今日はとらメイトを諦めた。 駅構内に設置された交番で僕と月野さんの事情聴取が行われたのだが、それが僕の予想より長くかかり、終わったときには日も沈みかけていたからだ。 僕は家に戻ってきていた。 ベッドに横たわり、買ったばかりの携帯
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迷ってへたれて抱きしめて #8

痴漢とは、こういった満員の電車などで、女性に対しわいせつな行為を働く、自分の性欲すらまともに制御できない動物と同等の馬鹿野郎のことである。いや、理性を持つくせにそういうことをする人間の痴漢の馬鹿と動物を比べるのは、動物に失礼か。   痴漢は
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迷ってへたれて抱きしめて #7

4   ――結局告白はできなかった。   しかし断じて! 僕のせいではない。そう、僕は悪くない。   ただ、想定外の事態が起こっただけである。   昨日、あのまま僕達は昇降口に向かった。兎束さんがよく話を振ってくれたおかげというのは情けない
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迷ってへたれて抱きしめて #6

「悪いけど先帰っててくれ」 放課後になり、クラスの連中が次々教室を出るなかで、僕は桜に告げた。「お、どうした遥」「ちょっと……岩倉に呼び出された」「お前が? マジか、珍しいこともあったもんだな」 桜は自分の鞄を片手に、意外そうな顔を浮かべる
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迷ってへたれて抱きしめて #5

受験を終えて、進路先が無事に決まり、後はただ卒業を待つだけの僕達三年の教室には、どこか腑抜けた雰囲気が漂っている。 それは受験期の不安や緊張から解き放たれた反動によるものなのかもしれないし、何もしなくたって義務教育なんだから卒業できるという
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迷ってへたれて抱きしめて #4

なぜ自分の教室に真っ直ぐ行けないのか。 その理由は、那都葉にある。『おにいちゃん、ついてきてくれるよね……?』 あれはそう、こいつが幼稚園に入園した十年近く前の話だ。 うっすらとしか記憶していないが、多分そんなこと言われて、当時年長さんだっ
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迷ってへたれて抱きしめて #3

2 妹は何か病気なのではないか。 そんな風に少し心配になってしまうほど、自転車は軽々と進んだ。定員一名の乗り物に、無理して二人乗っているとは思えない。 それでも存在感だけはしっかりあった。主に背中に。 中学一年生にしてこれだけ成長できている
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迷ってへたれて抱きしめて #2

「……着替えるか」  素敵なお声のおかげで心に温かみを取り戻した僕は、制服に着替えることにした。朝の時間ってやつはどうにも足が速いから、そうそうのんびりもしていられない。 着慣れたシャツ、ズボン、そして最後にブレザーへと袖を通すと、何だかふ
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迷ってへたれて抱きしめて #1

――多分、ここまで先生に感謝したのは、中学生活を三年間過ごしてきて初めてじゃないだろうか。 シャーペンの音がはっきりと聞こえるくらいに、教室の中は静かだった。少し気まずいが、それ以上に幸せな時間が流れている。「寒いね、ここ」 彼女がふと手を
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