トリビア【リハビリショートショート】

 私がこれを君に伝えるのは、単にそういう風に気が向いたからに過ぎない。だから、君が選ばれたことそれ自体はなんの意味も持たないということを最初に伝えておこう。その上でこのきまぐれに付き合ってくれるというのであれば、これから私が言うことを素直に実行してみてほしい。いや、心配はいらない。君は指一本動かす必要はない。動かすのは頭だけでいい。
 君の誕生日を教えてほしい。
 いや、たった今伝えたばかりだが、君は指一本動かす必要はないのだから、すなわち口も動かす必要はないし声帯を震わせずともよい。いかんせん、人は無機物に対して言葉を発することに、少なからず抵抗を持つはずだ。これは、君にそんな負担をかけてするような話でもない。だから、ただ、思い浮かべるだけでいい。何年の何月何日に生まれたのだと、思い描いてくれればそれで構わない。
 よろしい。ああ、ありがとう。十分だ。
  
 さて。今、君の頭には、日付と共に、君の歩んできた歴史が浮かんでいる。
 そんなことはないと思うかもしれないが、日付とは単なる数字ではなく「時間」そのものだから、意識せずとも君は過去へと移動する。そういうものなのだ。いつ生まれ、どう思い、どう動き、どう愛し、愛されたか。長いようで短くも感じられる、君自身の時間、人生が脳の中に詰め込まれている。そして人はそれを頼りに、時間旅行をいつでもすることができる。無論、過去限定だが、それでもこれはなかなか素晴らしいことだ。そして、今回私が伝えたいのは、その件に関わる真実だ。ああ、勿体つけてこんなことを言うと少し緊張するだろうか。でも安心してほしい。「真実」という響きこそ大げさだが、知ったところで君の人生には些細な影響しか及ぼさない、まあ、雑学の一種だ。気楽に聞いてほしい。
  
 いや、実はね。
 その君の歴史、すなわち人生というのは、私が君にこの話を始めたその瞬間に、私が作り出したものだ。
  
 よし、これで私の気は済んだ。きまぐれに付き合ってくれてありがとう。また気が向いたら、君を話し相手に選ぶかもしれない。そのときはよろしく頼む。
 ああ、安心してくれ。ここで私がいなくなっても、君が消えることはない。物語とは、最終回がすなわち終わりではないのだから。
 

あとがき

どうも僕です。
文章というものは鍛錬が必要なものでありまして、しばらく書くことをしないでいると途端に鈍っていくものです。筋力やなんかと全く同じ。
てなわけで、「リハビリショートショート」と題しましてちょっとしたものを勢いで書いてみました。ほぼ何も練ってないので、話の系統が自然と僕の好きな「自己の存在を疑う系」になりました。
本当は読んで面白いものを書くべきなのでしょうが、今回はその辺も全く考慮していないので面白さは未知数。書いていて楽しかったですし、僕は好きな感じに書けたと感じているので、面白いと感じた方は僕と感性が似ているんだと思ってください(笑)
これから、もしかするとこういう短文をちょこちょこ書くかもしれません(書かない可能性も十分あります)。今回はショートショートというかたちにまとまりましたが、毎度毎度完成するとも限りませんので、その点はご了承ください。創作の手前、文章を書くという行為を単純に楽しむ遊びだと思っていただけると的確かと。
それでは今日はこの辺で。
 

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