創作

自作小説

お誘い

「あ、もしもし?」『もしもし? 直子なおこ?』「もしもし美貴みき? 聞こえてる?」『聞こえてる聞こえてる。えーマジ久しぶりじゃん直子! どしたの急に』「突然ごめん。実はさ、今度仕事でそっちに行くことになりそうなのよ」『え、仕事? うっそー、
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その魂に幸あらんことを

SE 波の音テテ「(繰り返し小声で祈る)ヴォクタレ・リ・ファルントソ……ヴォクタレ・リ・ファルントソ……」SE 近づいてくる足音テテ「(繰り返し小声で祈る)ヴォクタレ・リ・ファルントソ……ヴォクタレ・リ・ファルントソ……」SE すぐそばで立
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研究記録第六二二六七二

我輩のお名前は、メルティス=フォン=ティマ=(中略)=マナロード。人呼んで「魔道王」である。 極めに極めた魔法学を駆使して自分の領土を広げまくった結果、名前が長くなりすぎたため、いつもこのように名乗っている。言わずもがな、(中略)の部分は名
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意味

それは、人類の叡智えいちが輝きを増した時代。 人々はポリスと呼ばれる都市国家を形成し、共同で生活しながら、議論に明け暮れていた。「やはり誰かのいたずらではないのか」「いいや、奴隷が束になっても抜けなかったんだ。誰にも気付かれずに、そんなもの
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食わせ者

SE 木々のざわめきSE 雪の上を歩く猟師「ふう……あいつめ、ずいぶんと遠くまで逃げやがった。さすがに人間とは、走る速度が違いすぎるな」SE 雪の上を歩く猟師「だが、あいつはすでに何度も人里に姿を現している。冬眠し損ねた、危険なクマだ。まだ
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冬の時代

日曜日の夜。というより、日付が変わって月曜日となった、深夜二時過ぎ。 僕は泣きそうになりながら、布団にくるまっている。「働きたくない……働きたくない……働きたくない……」 早く眠らなければ、という焦りがいつしか労働への拒否反応へと変わって、
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旧交

「う……」 男は、土の上で小さくうめいた。起き上がろうとするが、左の脇腹と右膝がひどく痛んで力が入らない。身を起こせぬまま、何とか手探りで腰の鞘を抜き取ると、それを支えにふらつきながら立ち上がった。 あたりは深い森だった。それでも、わずかに
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天気予報

「ふう」 明日あすの講演で使用する資料を作り終えて、私は背もたれに深く体を預けた。毎日毎日講演続き。疲れはあるが、それだけ自分が求められているということに充足感も覚えていた。 最近では、大学や研究機関のみならず、一般向けの依頼も増えてきてい
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参拝

SE 石畳を歩くSE 段差を上がるSE お賽銭SE 手を叩く(2回)参拝客:よう。初詣はつもうで対応お疲れさん。(間)参拝客:お、なんだ? 無視か? この俺がわざわざ来てやったのに。遠いんだぞ、ここ。(間)参拝客:……返事がない、ただの社の
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サンタクロース・システム

サンタクロース・システム。それは、子育てに悩む大人達が編み出した社会システムである。 世の中の子どもを持つ親たちは、十二月二十四日が近づくと、「サンタクロース」なる老人の存在を我が子に話して聞かせる。クリスマスの夜、奉仕と慈愛の心に満ちた赤
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