書評『乙女座の君へ』鏡リュウジ

はじめに、書評、などという言葉を使いましたが、それは一目見て分かりやすく、かつクールな印象のある熟語を選んだ結果そうなってしまっただけで、実際には「感想文」と言うべきレベルのものであることを断っておきたいと思います。
本に対する批評文が一般的にどのように書かれるものなのか分からないのですけれど、あくまで僕は僕の言葉で、僕の思ったことだけを書きたいと思います。気軽に書く文章です。気軽に読んで頂ければと思います。
さて、今回僕が読んだのは『乙女座の君へ』という本。筆者は鏡リュウジさんという方です。本の末尾にあった筆者紹介によれば、心理占星術研究家であり、翻訳家でもある方だそうで、どこかで聞いたことがあるような方ではあるのですが、もしかしたら気のせいかもしれません。
内容は、「乙女座」というひとつの属性を主題とし、「乙女座というのはこういう人である」を語り、「乙女座のあなたはこういうふうに考え、時にこういうふうに悩むのではないですか?」と問いかけ、「そういうときはこうするといいですよ」と31の言葉で元気づけてくれる、そんな本となっています。
正直僕は普段、この手の本を読むことはありません。なぜなら、星座とか誕生日とか血液型とかに基づく分類・分析について、懐疑的な部分を持っているからです。しいて言うなら血液型に関しては、人体に関する部分での分類ですので、もしかしたら生物としての違いがあるのかもしれないとも思えるのですが、生まれた日、それによって決まった星座によって自分の性格や考え方に影響があるとは考えにくいと思ってしまいます。そういう部分を持つからこそ、積極的に今回のような本を手に取ることはまずないのです。
ただ一方で、こういう本が嫌いかといえばそうでもありません。もちろん、すべてを鵜呑みにして「自分はこういう人間なんだ」と思うことはありませんが、確かにそういう部分もあるのかもしれないなと自分を見つめる機会にはなりますので、「自分」について考えるのが好きな僕はどちらかというとむしろこういう本は好きです。この手の本は「あなたにはこんな良いところがありますよ」と励ましてくれる場合が多いですから、それが本当かどうかは別にするとしても自己肯定的な気分になることができます。やる気を起こしてくれる部分も確実にあると感じていますので、考えてみると読んで損はないのかもしれません(とはいえ、前述したように僕はこういう本に懐疑的ですので、やはり積極的には買うことはないと思いますが)。
今回この本は、先日の誕生日に、妹にプレゼントとしてもらったものです。誕生日ということで、それに関わるような本を選んでくれたのかもしれません。もしくは、同時にもらったあの話題作、ピース・又吉直樹さんの『火花』がメインで、これはおまけくらいの感覚だったのかもしれません。結論を言えば、おまけとしては非常に優秀な本だったのではないかと思います。ではこれから、僕がこの本を通じて何を得たのか、それをお伝えしていきましょう。
 

僕の目的を果たしてくれた本

この本によれば、乙女座は「美しさ」を大事にし、それを求めているようです。常に完璧を目指し、自分のなかのルールやこだわりを重んじ、それを根幹として生きているのがこの星座のもとに生まれた人間なのだと述べておられました。
確かにそういう部分はあると思います。「完璧」であることがすなわち「美しさ」であり、そういう人間でありたいと理想像を描いて、そうあろうとしている節はあると思います。
ただ、僕の考えでは、全ての人間がそうなのではないかと思うので、正直言って上記したようなことが乙女座の特性であり、強みであるとは思えませんでした。だって人間なら誰しもが、各々の理想を多かれ少なかれ持っていると思いませんか?その理想は各々にとって間違いなく憧れで、美しいものだと思いませんか?それを目指して生きるのは普通のことだと思いませんか?
だから、僕にとってやはり乙女座がどうこうという部分は、どうでもいいと言ってしまっても良いと思える部分でした。そんなことよりもこの本の良かった点は、僕が予想したとおり、また、僕がこの本に求めていたとおり、僕に元気をくれたということです。この本は「乙女座の君」というかたちで僕を褒めてくれました。「こういうところで悩むことを知っているよ」と僕に寄り添ってくれました。それが真実かどうかはこの際どうでもいいことなのです。単純に、人に肯定されて嬉しい。その嬉しさを感じられただけで僕は満足でした。前述したように僕がこの手の本に抱いている印象は、「それが本当かどうかは別にするとしても自己肯定的な気分になることができ」るということであり、そうなることを望んで読みましたので、実際に思ったとおりの結果が得られただけで良かったと思っています。
 

「自分と同じ」人間の言葉

この本のもうひとつのポイントには、章の狭間に乙女座の著名人の言葉が載っているということが挙げられると思います。僕は、それぞれがそれぞれの考えで生ききった、あるいは生きている人間の言葉が大好きです。彼らの発言、彼らの哲学には、その人生に裏付けされた重みがあります。彼らの人生そのものがその言葉の根拠となっていますので、やはり力があると思います。そういったものに触れるのが大好きなのです。
今回は本のなかから、2人の方の言葉を紹介しておきたいと思います。
成功とはただ一つ。自分の人生を自分の流儀で過ごせることだ。/アガサ・クリスティ
完成できたほうがいいにはきまっているが、できない人だってあるんだ。わたしは失敗に終わってしまった。しかし、完成を心にえがきながら、ずっと楽しく生きてきたよ。/星新一

自分は自分らしく、自分に基づいて生きる。
完成、完了、最後までやりきることも大事で、できるのであればそのほうがもちろん良いが、それだけが全てではない。楽しく生きることも大切だ。
僕は、そんなふうにこれらの言葉を解釈しました。これらは僕自身が大切に思っていることで、だからこそ都合よくそんなふうに捉えた部分もあるかもしれませんが、とにかくこれらの言葉は僕の考え方を非常に強い力で肯定してくれるものとなりました。
特に星新一さんは僕の大好きな作家のひとりです。そんな彼が、僕と同じ乙女座であることも嬉しかったですし(彼の星座までは着目したことがなくて今まで気付きませんでした)、僕と同じとはいかなくても近い考えを持っていることは励みになりました。
上記した言葉に出会えたことが、この本を本で得たひとつの大きなことです。
 

サンクチュアリ出版について

以上がこの本を通して僕が抱いたことの全てですが、最後に蛇足として、この本の出版社であるサンクチュアリ出版について少し書きたいなと思います。
サンクチュアリ出版は、本を読まない人のための出版社なのだそうです。だからなのかは分かりませんが、この本は確かに実質的な内容の密度は高くなく、活字がぎゅうぎゅうに詰め込まれた本に比べると、だいぶあっさりと読める本でした。それでいて、少なくともこの本には得られるものがきちんと込められていた。出版社のコンセプトを知ったとき、なるほどと思える本だったと思います。
本を読まない人のために本をつくる。それは、きっと楽しいことでしょう。実際のところ、本を読まない人は文字通り本を読まないわけですから、そういった人にどれくらいサンクチュアリ出版の本が届いているのか分からないという部分はあります。でもそれはそれとして、本を読まない人に本を届けようという目標のもとで仕事をするというのは、確かなやりがいをもたらしてくれるような気がするのです。だって、興味を持たない人に興味を持たせるというのはなかなか難しいことなのですから。
そういう意味で、僕はおもしろい出版社だと思いました。
この記事の末尾にリンクを貼っておきますので、気になった方は見てみてください。「クラブS」という定期購読サービスには、少しだけ惹かれるものがありました。毎月、この出版社の新刊が基本的には1冊ずつ届くというサービスのようです。年会費は12000円(税別)なので、12冊の本(この出版社では基本的に1ヶ月に1冊刊行らしいので12冊ですが、それ以上刊行した場合には13冊以上届く場合もあるのだそう)が届くことを考えると別に安いわけではなく、極めて妥当なお値段ですが、毎月新刊が贈られてくるということは、普段なら選びそうもない本が贈られてくる可能性が高いということです。それっておもしろそうですよね。自分の興味の外から、知らなかったことが飛び込んでくるということなのですから。
……まあ、そうは言っても僕は、定期購読はしませんけどね(笑)
ではではこの辺で。このたび、思い切って「書評」カテゴリを新設してしまったので、本離れが進んでいた僕ではありますが、これからは少しずつ本を読もうかなと思います。そして、書きたいと思った本については記事にします。
See you again!
「サンクチュアリ出版」リンク 
 

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