パパを嫌いでいて

 やあ、アニー。十六歳の誕生日おめでとう。

 本当なら何もかもを放り出して君と一緒に過ごしたいのだけれど、あいにくとウチの上司が、そのまた上司から招待を受けてしまってね。パパもそれについていかなきゃならないんだ。

 もちろんパパも、“愛する娘の誕生日があるんだ”って抗議したさ。でもね、そうしたら彼は言ったんだ。“俺もだよ”って。

 その時の顔を見てしまったら、パパは何も言えなくなってしまった。まるで、鏡を見ているみたいだったからね。隣で、アレックスとマークも似たような顔をしていたから、どうやら君と同じ月に生まれた子が多いみたいだよ。

 急なことで、プレゼントも用意できなかった。でも、それだけでパパが君への愛を忘れてしまっただなんて思わないでほしい。今すぐ送れるのはこんな手紙ひとつしかないけれど、家に帰る頃にはたくさんのプレゼントを抱えて帰ろうと思ってる。上司と、アレックスとマーク、そしてパパ、みんな揃ってサンタクロースみたいに、プレゼントをかついで帰るよ。もちろん、気に入らなかったら追加で買ったって良い。そのときは遠慮なくパパに命令してくれ。君の命令なら、上司の命令の何倍も迅速に対応してみせるよ。ママからの命令には、かなわないかもしれないけどね。

 そうだアニー、十六歳になった君に、ひとつ、昔話をさせてほしい。あの頃、君はまだ三歳になったばかりだったから、きっと覚えていないと思うのだけれど、実はパパの心に、ずっと残っている君の一言があるんだ。それはそう、初めて君に「パパなんて嫌い」と言われてしまった日と同じくらい、心に残ってる。どちらにも共通するのは、君の成長を感じたってこと。だから、今日、またひとつ成長した君に、この話をしたいと思ったんだ。

 あれは、ママが買い物に出かけているときだった。パパは君を、自分の部屋に招待して、君の遊び相手をさせてもらっていた。あの頃の君は、今以上に好奇心旺盛で、何にでも興味を持つ子だった。毎日毎日、君は、驚くほどたくさんの質問をパパやママにしてきたね。パパ達は、内心、いつか君にすごい質問をされて、答えられない日が来てしまうんじゃないかって、びくびくしていたんだ。だから、こっそり色々勉強していたんだよ。

 パパの部屋に飾ってある世界地図も、その勉強の一環だった。パパは、君の親として、せめて国の場所くらいは、正確に伝えてあげられるようになっておかなければと思っていたんだ。そしてあの頃は、ちょうど一通りの国を覚えきった頃だった。だからパパは、君にかっこいいところを見せようと思って、地図を指さして君に言った。

 ここがパパ達の国だよ、って。

 パパの想定では、そうやって教えてあげれば、それ以外の国にも興味を示すと思っていたんだ。そうして君が、“じゃあここは?”って質問してきたなら、得意顔で答えるつもりだった。どこの国を指されたって、あの頃の僕なら即答できる自信があったよ。・・・・・・もちろん、今はもう質問しようなんて思わないでほしい。絶対にね。

 でも、当時三歳の君には、パパの常識なんて通用しなかった。君は、パパの指さした地図をじっと見つめた後、こう言ったんだ。

 この線は? って。

 それは、国と国を分ける線、つまり、国境線だった。もちろんパパはすぐに、それが国境線だと伝えた。国境線がどんなものなのかも説明した。でもね、君は不思議そうに首をかしげるばかりで、ちっとも納得してなさそうだった。

 誰が分けたの? いつからあるの? なんで分ける必要があるの?

 そうやって、次から次へと質問してきた。そのときのパパは、一応それらしい答えを返したつもりだったけれど、心の中では、冷や汗をかいていたよ。そして同時に、思ったんだ。

 確かに、なんでなんだろう、って。

 アニー。パパとママの愛する娘、アニー。賢い君は、そんな質問の最後に、こう言ったんだ。

 “この線の、こっちとあっちは、どう違うの?”

 その質問に、今、答えさせてほしい。

 きっと違いはないよ、アニー。あったとしても、それは、ほんの少しの違いだけさ。食べるものや、信じてる神様や、話している言葉が違うかもしれないけれど、きっと僕たちは同じだと思う。今だからこそ、パパはそう思うんだ。

 だから、だからねアニー。

 君がパパを嫌うなら、そのままでいてほしい。パパのようにならないでほしい。パパの仕事は、この国の人たちを守ると言いながら、線の向こう側にいる人たちを攻撃する仕事だ。娘の誕生日を祝えずに、誰かの明日を奪う仕事だ。

 誰も、心の底では望んでいないのだと思う。誰もが、平和を願っていると思う。だけど、なぜかいつまでも、なくならない仕事なんだ。

 この手で君や、ママを守れることを誇りに思わなければならない、弱いパパを嫌ってほしい。そうでもしないと仕事ができないパパなんて、嫌いでいい。

 同じ思いを君がしなくて済むのなら、それでいいから。せめて、パパが君の横に戻ることだけは許してほしい。

 アニー、最後にもう一度。お誕生日おめでとう。パパは、必ず帰るよ。

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本作は、音声投稿サイト「HEAR」での朗読、ラジオドラマにご活用いただけるシナリオとして、「HEARシナリオ部」の活動内で作成いたしました。

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○クレジット

シナリオ作者:柚坂明都(ふぁいん) https://hear.jp/finevoices

シナリオ引用元:それはまるで大空のような https://fineblogs213.com/i-hope-you-hate-your-dad/

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