恋文

 成瀬くん、こんにちは。今年、同じクラスになった成瀬です。

 もしかしたら、誰だこいつって思われちゃっているかもしれないけど、わたしはずっと前から、成瀬くんのことを知っていました。

 はじめは、同じ名字だなあって思っただけでした。でも、いつの間にか気になっていて。

 はっきりとしたきっかけって、たぶん、ないんだけど。

 でも、ひとつ言えるのは、本を読んでいる姿がすてきだと思ったってことです。その、わたしはあんまり国語が得意じゃないから、うまく言えないけど、きれいだなって思いました。

 本を読んでいるときの、背筋がぴんと伸びた感じとか。

 一枚一枚丁寧に、ページをめくる手つきとか。

 横から見ると、意外と長いまつげとか。

 あんまり言うと、気持ち悪いって引かれるかもしれないけど、ひとことで言うと、本が似合うなあって感じ。きっと、そういうところに惹かれたんだと思います。

 わたしが成瀬くんを知ったのは、図書室です。それも、小学校の図書室。わたし、図書委員だったんだ。実は今もだけど。

 昔から、あんまり読まないくせに、本っていうもの自体は好きで、だから図書室って場所が好きだった。紙の匂いとか、静かな雰囲気とか、そういうのが好きで、その中で、いろんな人が本を読んでいる姿を見るのが好きっていう……わたし、変かな?

 とにかく、その中で見つけたのが成瀬くんだった。貸し出し簿に書かれた名前を見て、気になって、自然と目で追って。そうして、いつの間にか見入ってた。

 この人は図書室の精霊かもしれないって、当時の私は半分本気で思っていたくらい。……やっぱりわたし、ちょっと変かも。

 中学に上がってからは、図書室で成瀬くんを見かけることがなくなって、どうしているんだろうって思っていたから、今年、初めて同じクラスになって、今も変わらず本を読んでいる成瀬くんの姿を見て、いてもたってもいられなくなって。うん、そう、なんというか、たぶん嬉しくて。

 だから、こうして、手紙を書いてしまいました。まとまりなくてごめんね。

 わたしは、成瀬くんが好きです。

 全然話したこともないけど、この気持ちは、好きってことだと思います。初めて同じクラスになれたけど、きっとこれが、最後の1年間だから。

 後悔しないように、伝えるだけ、伝えさせてください。

 ここまで読んでくれてありがとう。

 追伸

 勝手にお手紙を出して、さらに勝手なお願いになっちゃうけど、一年間、この手紙のことは気にしないで、普通に接してくれたら嬉しいです。

「はっっっっっっっっず!!!!!!!!」

 私は机に思わず突っ伏した。ゴンッ、と、盛大に額をぶつけたが、そんなことはどうでもいい。

 なんだこれなんだこれなんだこれ!!

 朝の読書時間とかいう最高に優雅な時間のために、親の書斎から適当に引っこ抜いた一冊の本。それに挟まっていたかわいい封筒。

 興味本位で開いたけれど、まさかこんな内容だなんて。まさに青春の一ページ! いや正直、こんな一ページ読みたくなかった!

 どうして自分の母親のラブレターを読まされなきゃならんのか! こちとらまさに青春現役! バリバリ思春期! こういうのが一番恥ずかしいんだっつーの!

 なぁ~にが、「わたし、変かな?」だ!!!! 清純系美少女気取ってんじゃねぇぞあのくそばばあ!

 ――いやまあ実際? 私自身は花も羨む美少女中学生なわけだから? その母親が美少女だとしても不思議はないけども! ないけども!!!!

 きっついわー、ほんまきっついわー。

 そもそもさ、気にしないで欲しいんなら、卒業間際とかに渡せよ! この文面だとさ、絶対これ、同じクラスになった直後くらいに渡してるよね?

 それってもはや、気にしてくださいって言ってるよね? あわよくば意識してもらって、いい感じになろうとしてるよね?

 あざといわー、こういう女嫌いだわー。恥ずかしいったらないわー。

 便箋からしてもうあざといもんね。ピンクのちょうちょ柄。あらかわいい。かわいいチョイスでしょ、私かわいいでしょってか。

 破り捨てたろうかこんなもん!

「田中ァ、さっきから何ひとりで暴れてんの? 移動教室行くよ?」

「ああ! ごめんごめん今行く!」

 友達に呼びかけられ、我に返った私は慌てて席を立つ。

 ……って、あれ?

 そうじゃん、私の名字、「田中」じゃん。

 ちょうちょ、孵化できてないじゃん……。

 私は仕方なく、手紙をポケットにしまった。

 これは、破れないわ。

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本作は、朗読、ラジオドラマにご活用いただけるシナリオとして、「HEARシナリオ部」の活動内で作成いたしました。

ご使用の際は、説明欄等に、以下クレジットをご記入いただけますと幸いです。

また、音声投稿サイト「HEAR;」での投稿時には、タグに「恋文」もしくは「HEARシナリオ部」と入れていただきますと、作成いただいたコンテンツを見に行くことができるので嬉しく思います。

○クレジット

シナリオ作者:柚坂明都(ふぁいん) https://hear.jp/finevoices

シナリオ引用元:それはまるで大空のような https://fineblogs213.com/loveletter/

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