朗読シナリオ

自作小説

定期善行診断

私は受付を済ませると、待合スペースの椅子に腰掛けた。腕時計を見れば、予約時間まではあと二十分ほどの猶予がある。思ったよりもスムーズに受付できたので時間が余ってしまったが、遅刻するよりはマシだろう。まさか当日に状況を悪化させるわけにもいかない
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ローマ帝国兵の悩み

アパートメントの扉を開けると、どんよりとした灰色の雲が目に入った。今にもひと雨きそうな空模様。だが、その程度のことで、私の足が止まることはなかった。 袋に入った愛刀を左手に、すっかり慣れきった道を歩きだす。きっちりと舗装された道路、そして、
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子、想う、そして月を見上げる

扉が開くと、赤ら顔のおじさんたちが、やや怪しげな足取りで乗り込んできた。無駄によく通る大きな声で、会社への不平不満と、お酒の匂いを垂れ流している。満面の笑みと豪快な笑い声が、それはそれは楽しそうで、見ているこっちは悲しくなってきた。 そんな
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恋文

成瀬くん、こんにちは。今年、同じクラスになった成瀬です。 もしかしたら、誰だこいつって思われちゃっているかもしれないけど、わたしはずっと前から、成瀬くんのことを知っていました。 はじめは、同じ名字だなあって思っただけでした。でも、いつの間に
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卒業

最後の日だから、と担任に頼んだら、思っていたよりもすんなりと許可が下りた。 おかげで僕はこうして、風通しの良くなった校舎の中を、ひとり、歩くことができている。 人の行き交う玄関も、その先に見える校庭も、誰もいないというだけでいつもと違って見
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ローマ帝国兵の嘆き

ああ、嘆かわしいことだ。 この日本という国に、学生の体で転生して数年。毎年、今日、この日になると、憤りを抑えるのに苦労することになる。 二月十四日。この日は、偉大なる聖バレンティノ司祭が殉教なされた日だ。だというのに、この国の民はそんなこと
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