HEAR;ユーザー発オリジナルボイスドラマ『僕らに太陽がなくても』徹底レビュー

HEAR;」は、ルノハ株式会社が2019年12月にリリースした音声投稿サービスである。

リリースから2年が経過しているものの、その他類似の音声投稿サービスと比べると知名度は低い。サービス内容、ユーザー数ともに、まだまだ走り出したばかりのサービスだが、その投稿数や利用者は徐々に増加傾向にあり、勢いに乗りだしている。

そんなHEAR;において、ユーザー発のボイスドラマ企画が立ち上がった。作品タイトルは、『僕らに太陽がなくても』。

HEAR;ユーザーである「うゐ春菜」が脚本、そして、「ゆぺ」が監督を務め、キャストも全てHEAR;ユーザーで構成されている、完全な「ユーザーの手によるオリジナルボイスドラマ」である。

その最終章が、先日、2021年12月26日にアップロードされた。今回は、そんなボイスドラマについて、自身もHEAR;で活動し、また、「HEARシナリオ部」の一員としてシナリオ作成活動も行っている筆者の目線で、本気のレビューをお届けしたい。

忖度はしない。素人の、素人によるボイスドラマの仕上がりがどうなっているのか、人におすすめできるのか、徹底的に語っていこう。

「僕らに太陽がなくても」概要

オリジナルボイスドラマ「僕らに太陽がなくても」は全7章で構成されており、1章あたりの長さは4分~13分程度で構成されている。

また、各章に27秒のCMも存在している。CMは、各章のメインキャストが担当し、本編の配信2日前に公開されてきた。このCM音声は、企画に参加していないHEAR;ユーザーにも配布され、それぞれの音声投稿内で使用することが可能となっている。ユーザー発信のボイスドラマを、ユーザー投稿内で広めていく。その意味でも、ひとつの大きな活動となった。

CMのコピーライティングは、やはりHEAR;ユーザーである「たけのこ」が担当。筆者の所属するHEARシナリオ部にて広報を担当する彼が、その経験を活かし、27秒の中で作品世界を表現している。本編を聴く前はもちろん、聴いた後にCMを聴き直してみるのも、楽しみ方のひとつだろう。

投稿日長さキャストリンク
第1章CM2021/10/010:27とりちゃんhttps://hear.jp/sounds/bpVf2A
第1章2021/10/034:02とりちゃん、rien.(水森らいね)https://hear.jp/sounds/qo0uxw
第2章CM2021/10/15 0:27 りさhttps://hear.jp/sounds/l37QCg
第2章2021/10/178:17りさ、ミンクhttps://hear.jp/sounds/6e7_Mw
第3章CM2021/10/29 0:27 一猫https://hear.jp/sounds/Il-Upw
第3章2021/10/3110:00一猫、なすhttps://hear.jp/sounds/u821_A
第4章CM2021/11/12 0:27 ミンクhttps://hear.jp/sounds/rMCW9g
第4章2021/11/1412:27ミンク、ヌート(代役:うゐ春菜)、なすhttps://hear.jp/sounds/mFxihw
第5章CM2021/11/26 0:27 なみhttps://hear.jp/sounds/yXgxTw
第5章2021/11/2813:35なみ、北摂 影也、城 拓樹https://hear.jp/sounds/Is93Tw
第6章CM2021/12/10 0:27 りんかhttps://hear.jp/sounds/4oQ7Rw
第6章2021/12/128:41りんかhttps://hear.jp/sounds/9YgUGw
第7章CM2021/12/24 0:27 りさ、イツキhttps://hear.jp/sounds/styCZg
第7章2021/12/268:25とりちゃん、rien.(水森らいね)、りさ、イツキhttps://hear.jp/sounds/Jfzeow
ボイスドラマ企画「僕らに太陽がなくても」 
脚本・演出、CM監修:うゐ春菜、監督、CM企画、CM立案、CM編集:ゆぺ、CMコピーライティング:たけのこ

このボイスドラマプロジェクトは、2021年7月24日に始動した。世に姿を表したのは10月で、上記の表を見てもらえば分かるとおり、CMは10月1日、本編は10月3日に、第1章が投稿されている。

始動から実に5ヶ月。12月26日に完結した物語について、いよいよ切り込んでいこう。

※本レビューでは、ボイスドラマの内容について触れております。ネタバレを含みますので注意してください。未視聴者へのネタバレを防ぐ目的で、「続きを読む」を押さないとレビューを読めないようにしています。可能な限り、ボイスドラマ本編をご視聴の上、読まれることをおすすめします

※レビューという特性上、賛否双方の意見を含みますのでご注意ください

本編レビュー

繰り返すが、一部ネタバレを含むため、視聴後に読むことを推奨する。

第1章『三等星』

月のない晩、少年と少女が、屋根にのぼって会話する。虫の声が響く夏の夜、吹き抜ける風に少しだけ体を冷やしながら、少年は、ひっそりと輝く三等星に思いを馳せた。

“僕らはきっと、きっとさ、地球のはじっこにいるんだ。”


「とりちゃん」が演じる少年と、「rien.(水森らいね)」が演じる始まりの一幕。とりちゃんの声は、やや中性的な響きと落ち着きをはらんでおり、言葉の一音一音も澄んでいる。情景を描写する地の文については抑えられている感情が、台詞部分では少し顔を覗かせ、「少年」というキャラクターに確かな輪郭を与えているように感じられた。

見事なのはその演じ分けだ。地の文も、台詞も、その声色に変化はない。変化はないが、台詞部分では確かに、人間らしい息づかいがにじむ。とりちゃんの高い演技力が伺えた。後半で、大きな感情が発露する台詞があるが、そこもきっちりと表現しきっている。素人によるボイスドラマであることを忘れさせてくれるクオリティとなっており、開幕の主人公として、後続への期待を高める役割をしっかり果たしていると言えるだろう。

少女を演じているrien.(水森らいね)は、対照的に、突き抜ける高音が印象的な声をしている。惜しむべきは音質と演技で、これが素人によるボイスドラマであることを思い出す結果になってはいるものの、その前提で見れば決して悪くはない。それまで、落ち着いた雰囲気でまとまっていた作品に一石を投じ、台詞量は少ないながら、存在感を示していた。

虫の声をはじめとしたSEによる演出も忘れてはならない。違和感なく差し込まれる効果音によって、演者の演技を邪魔することなく、情景描写を補助している。シンプルで分かりやすい文章構成とあいまって、自然と場面が想像できる仕上がりとなっていた。演出、脚本ともに、聴いていて「何一つ引っかかるところがない」ことが、レベルの高さの証明だ。

第2章『ライオン流星群』

人工的な光で明るく照らされ、星の光を忘れてしまった都市。そこで見かけた、必死に走る男の手を、彼女はなぜだかつかみ、一緒になって走り出した。行くあてもなく、たどり着いた海辺で彼女は答える。

“走りたかったから走ったの。”


「りさ」が演じる彼女と、「ミンク」演じる男が、夜の街で突然の逃走を始める第二幕。ストーリーとしては、見知らぬ男女が海まで逃げるという、ただそれだけだが、「星ひとつ見えない都会の夜空」という一文から始まり、どこか批判的な、もしくは、自身の芯を強く持った「彼女」が、その心の赴くままに逃げ出すという行為に、束縛、もしくは閉塞感からの解放を感じざるを得ない。

演じるりさは、第1章のとりちゃんとも、rien.(水森らいね)とも違う、大人びた女性らしい声で、彼女の姿形を表現して見せた。言葉の端々で発音が甘くなったり、台詞部分の演技で若干のぎこちなさを感じさせたりと、どうしても素人感は拭えないが、落ち着いて聞き取りやすいその声質は、夜の都会、夜の海といったシチュエーションにマッチしていた。女性の演じ手が続く中、第三の登場人物として、その存在を差別化してみせた。

男を演じるミンクは、とても特徴的な声をしている。ややノイジーで、男にしては高め、引っかかるような声質は、りさの声質で作られた世界を一気に塗り替える力を持っていた。一変する空気感に、一瞬戸惑いはするのだが、不思議とすぐ馴染む。逆に良い転換材料となって、声で物語の進行を助けているように感じられた。

また、ついついその声質に気が向いてしまうが、演技力は高い。主導する彼女に巻き込まれ、振り回される役どころなだけに、戸惑いや、怒りといった感情を表現する必要があるが、それらを的確に表現しきった。息を切らす表現、状況が整理しきれない不安感、どことない情けなさなど、男の人物像を明らかにする演技だった。

第3章『蠍の心臓』

海辺で出会った親友同士は、海辺で袂を分かち合う。私に突き刺さる悪意。私の命を奪う嫉妬。薄れゆく意識の中、砂浜に倒れる私を見つけてくれたのは、初恋のおまわりさんだった。

“私を見つけてくれありがとう……。”


これまでとは異なり、わずか10分の中で事件が巻き起こる第三幕。主人公の「私」が、親友である「あなた」と会話する形で進んでいくのも、これまでとは様式が異なる。「あなた」に台詞はなく、実質は「私」の一人語りのため、かけあいながら演技できる場合と比べて難易度は高い。しかしながら、この難しい役どころを任された一猫は、スタートランナーでありながらプロ並みのクオリティをたたき出して見せた、とりちゃん以来の感心を聴き手に与えることだろう。

分かりやすさのために比較するのを許して欲しいが、とりちゃんの演技がマイク前で演じる「声優」だとすれば、一猫の演技は、広い会場の前方で演じる「舞台俳優」だ。演技力で言えば、ふたりに遜色はない。だが、声の圧が違う。声質か、あるいは発声によるものか、同じ音量で聴いているはずなのに、一猫の声からは耳に轟く圧を感じた。明るい場面と、暗い場面の対比も、よりはっきりとしている。それもあいまって、「私」には、それまでの登場人物にないはつらつさがあり、明るさがあり、それゆえに、親友との諍いがより際立った。

そんな一猫の相手役、あこがれのおまわりさんであり、「刑事」を演じることになったなすは、少しばかり運が悪かったと言わざるを得ない。声はこれまでで随一の低音で、よく響き、「私」とは歳の離れている男を演じるには絶好だった。演技力も悪くない。だが、声のない「あなた」の存在まで見事に想像させてみせた一猫の演技の直後だからこそ、物足りなさを覚えたのは事実だ。また、これは聴き手により意見が分かれるところだと思うが、少々色気がありすぎたようにも思う。良い声がほんの少しだけ裏目に出たかもしれない。

脚本面では、うゐ春菜の言葉遣いが光ったと言っていいだろう。表現によっては、もっと凄惨になってしまってもおかしくない場面だった。しかしながら、この作品の脚本家は、これまで培ってきた雰囲気を保つように、「私」の純粋で、優しい人間性を壊さないように、決して強すぎる単語を用いなかった。随所にその工夫は見られるが、個人的には、「空の上」という表現に拍手を送りたい。

第4章『月食』

愛しい人が待つアパートに男は急ぐ。今日もまた、彼女との素晴らしい時間を紡いでいくはずだった狭い部屋。しかしそこで待っていたのは、愛する者ではなく、狂気じみた真実だった。耐えきれなくなった男は逃げた。ただその場から、逃げ出した。

“どうしてこうなってしまったんだ。”


第2章、そして第3章の答え合わせとも言える四幕目。第2章で男が走っていた理由、第3章で「私」が命を落とした後が描かれる。第2章では巻き込まれるだけだった男を、引き続き演じるミンクの特徴的な声が、瞬間的に第2章と第4章をつなげてくれた。公開当時、第2章と第4章の間には1ヶ月もの空白があったはずだが、一度聴いたら耳に残るミンクの声のおかげで、瞬時に第2章のことを思い出したリスナーも多かったことだろう。

第2章では、唯一無二であるが故に面食らう部分もあったミンクの声だが、慣れたおかげで、この第4章でようやく、彼の演技力の高さに気づいた者も多いかもしれない。状況が状況だけに、切羽詰まった演技も求められたが、すらすらと早口でまくしたてる台詞も危なげなくこなし、息づかいまできっちりと演技しきった。脇役だった男が、間違いなく主役になった瞬間である。

一方、第3章で脇役だった刑事は、今回も脇役だ。だが、変わらず響く低い声が重苦しい雰囲気作りに一役買い、良い仕事をしている。若干の間延び感が惜しいが、ヒステリックな幼馴染みの女に対し、一貫して冷静さを貫き、そんな台詞の端に、亡くなってしまった「私」への思いもにじませる「特別な刑事」という立ち位置をしっかり演じきった。

脚本面でも、第3章に引き続き、うゐ春菜の言葉遣いが光った。いや、第3章があったからこそ、そのセンスに感服させられた。ネガティブな言葉を避けた第3章と比較して、第4章は、「殺す」「死ぬ」といった言葉が躊躇なく用いられている。それが全体を引き締め、緊張感を高める役割を果たしていた。同時に、第3章の「私」がいかに素晴らしい人物であったかを強調していた。悪役として登場する幼馴染みの女が、「私」の顔を奪ってなりすますという行為をしたこともあいまって、対する「私」の輝きが増しているのはさすがの構成だった。

なお、今回の騒動の中心となる幼馴染みの女については、代役込みの演技となっているため、このレビューでは割愛する。

第5章『願いの海にかける橋』

幼い頃、先生に怒られた苦い思い出。けれども、初恋の君の姿がちらつく、少しだけ甘い思い出。思い出は思い出であって、いつかは風化するものだと思っていた。

“私の願いは『また会いたい』。”


閑話休題、いやむしろ、これから余談に入ります、と言わんばかりに、雰囲気がガラリと変わる第五幕。それまでになかったBGMがコミカルな雰囲気を作りだし、主役の二人が場を和ませていく。全く違う作品と言っても違和感がないほどに、笑いと、甘酸っぱさにあふれた章となっている。

妹である「私」を演じたなみは、陽気でテンポ感のいい台詞まわしで、辛辣さと愛情を併せ持った、平凡で平和な家庭の妹を演じた。彼女が持つ、幼すぎず、それでいて大人の雰囲気も薄い絶妙な声質が、普通であるからこそ愛すべき妹像を作り上げてくれていた。第4章が衝撃的だったからこそ、なみの演技にほっとしたリスナーもいたことだろう。

対する兄を演じる北摂 影也もまた、いつもどこかふざけている兄をごくごく自然に演じきり、兄妹のやりとりに味を出していた。彼がふざけているからこそ、なみの辛辣さが輝く。一方で、仕事でもある編集者、インタビュアーを演じる場面では、仕事モードと言わんばかりに真面目になる。真面目になると、彼の良い声がとても聞き取りやすい。技巧派、天才肌のどちらかといえば、声に魅力がある天才タイプの演じ手だ。

妹の初恋相手であり、野球選手としてインタビューを受ける役どころとなった城 拓樹は、仕事モードと家モードがあった兄とは対照的に、一貫して楽観的な青年を演じてみせた。大人になってもどこかお調子者の雰囲気をにじませ、明るく裏表のない人間性を終始表現したことで、「変わらぬ憧れ」を体現している。そのおかげで、幼い頃の思い出を壊さずに済んだのは、彼が彼のままであったからだとほっこりすることができた。

第5章は、箸休め的な面もありながら、前章との落差によって、これからの展開を読めなくさせる効果も持った、不思議な一幕である。

第6章『冥王星』

たった一度しか入ったことのないバーで、彼は優しさの音に触れた。それを返すように、彼もまた、つたないピアノを贈る。気づけば、ふたりとも涙していた。

“出会ったのは霧の中でピアノを弾く、一人の演奏者。”


念のため断っておくが、筆者に個人を攻撃する意図はない。あくまで作品の感想として、率直に表現するが、第6章には落胆を感じた。このシリーズで初めて、終始たったひとりで語りきるという、極めて難易度が高い役柄を演じるには、りんかは力不足だったと思わざるを得なかった。おそらくは収録環境のため、音質も良くなく、滑舌も甘い。それにより、シンプルに聞こえづらい。声自体は優しく、バーのナレーションという意味では決して不向きな声ではないが、意識しないと言葉が入ってこないというのは、音声作品にとって致命傷だろう。

だがこれは、りんかの責任ではないと考えている。りんかは何も悪くない。どころか、別に誰も悪くない。最初から、「素人によるボイスドラマ」であることは明らかで、そこに演技力など求めるほうが酷なのだ。それを求める人間は、音声投稿サービスなど聴かないほうがいい。最初からお金を出して、プロのプロによる音声作品を聴いていればいいのだ。

ゆえにこの落胆は、むしろ、それまでの5章がハイレベルすぎたことを意味している。いつの間にか、耳が贅沢になっていた。本来の姿はむしろこちらで、こちらのほうが自然なのだ。こういう甘さ、隙すらも楽しむのが音声投稿サービスなのだ。ゆえに、もしまだ聴いていない読者の方がいるのであれば、自然と上がりきってしまっていたハードルを、第1章を聴く前の状態へと戻して欲しい。

そうして冷静になって聴いてみれば、りんかが一音一音を丁寧に、なるべくはっきりと読もうとしている姿勢が容易に聴き取れる。台詞の内容も入ってくるようになるし、情景だって目に浮かぶ。ムーディーなピアノのメロディもその手助けをしてくれることだろう。そしていつしか、そんなりんかのナレーションが作品と重なる。作中で「彼」が弾く、不慣れなピアノの音と重なる。

第6章は、それでこそ完成するのかもしれない。

第7章『北斗七星』

彼には9歳までの記憶がない。親もなく、いたと言われている兄の姿も覚えていない。あの頃の記憶で、唯一覚えているのは少女の声。真ん中じゃなくても、端ではないのだと言ってくれた彼女の声。懐かしいピアノの旋律に背中を押された彼は、彼女に会うため海に行く。そこで見つける。太陽を忘れた僕らを導いてくれる星が、水面に映っているのを。

“宇宙の地図だ……。”


印象的だった第1章のとりちゃんの台詞が、不思議な7つの物語をつなぐようにして七幕が始まる。何度聞いても美しいとりちゃんの声からバトンを渡されたイツキは、最終章にして唯一初登場ながら、成長した少年を演じていく。低く、素朴さもある良い声が心地良く、美しい少年が、美しい青年になったことを感じさせた。そこで、第6章の演奏者がこの青年であることが明かされる。第6章で青年は、ほのかに兄の存在を感じており、それが彼の足を動かすことになるという脚本の流れも見事だ。

これまでの章の中で何度も登場した「海」という舞台で、第2章に登場した彼女と、青年が邂逅する。姿も、声も変わっているはずなのに、そうだと確信する。そして、タイトルの意味が明かされる。

第7章は、これ以上に書くことがない。7つ全てが繋がった瞬間を、ただ味わえばいい。

総評

まとめに入る前に、ひとつだけ記しておきたい。オリジナルボイスドラマ「僕らに太陽がなくても」は脚本が公開されており、読むことができる。音声だけではどうしてもイメージしきれなかった部分、理解が及ばなかった部分があったと感じるならば、文字によって読んでみるのが良いだろう。

朗読劇『僕らに太陽がなくても』(https://haritora.net/look.cgi?script=17402)

この脚本には、以下のように書かれている。

表向きは、七つの掌編オムニバスを基本とした、朗読劇のような脚本となっております。ひとつひとつを楽しむこともできますが、しかし、よく読めばすべて繋がっているような、不思議な物語です。

朗読劇『僕らに太陽がなくても』

その通り、各章は単独でも物語として成立するが、やはり7章全てのつながりを探しながら楽しむところに醍醐味があるように思う。人物同士のつながり、背景、時系列などを整理しながら究明していくには、一度聴いただけでは足りないだろう。時に前の章へと戻りながら、何度も聴いて発見する楽しさをぜひとも感じていただきたいと思う。

音声作品として見れば、すでに書いたとおりだが、全体として、非常にレベルの高い音声作品に仕上がっていた。特に、とりちゃん、一猫、ミンクは演じ手として頭ひとつ突出している。だが、個人的に好きなのは、やはり第6章だ。あの章がなければ、HEAR;としての損失になりかねなかった。決して皮肉ではなく、あの章、そしてりんかの存在は後続の希望だ。演技が上手くなければボイスドラマをやってはいけないなどということはない。むしろ、苦手意識や恥ずかしさを乗り越え、どんどんやるべきだ。それでこそ音声投稿サービスの醍醐味である。使い古された言葉を贈るなら、「最初から上手いやつなんていない」のだ。

その意味では、脚本のハードルは極めて高くなったと言わざるを得ない。完全にHEAR;内だけの人脈で生まれたボイスドラマとしては初めてとなるこのシリーズ、それがこの出来では、今後挑戦するにしても、生半可な脚本を差し出すわけにはいかないだろう。

それぞれ異なる7つの物語を見事にまとめ上げただけでなく、言葉のひとつひとつでもって与える印象を的確に操作し、描ききったうゐ春菜の手腕に脱帽する。白状すれば、第7章は、気づくと目に涙が浮かんでいた。もちろんそれは、ゆぺの助力もあるだろう。このクオリティを鑑みれば、むしろ5ヶ月など早いほうだ。裏方のハードルは極めて高くなったが、いちHEAR;ユーザーとして、どうかこの文化が続くことを祈りたい。

おわりに

というわけで、どうもこんばんは、ふぁいんです。

レビューということで、主観に偏りすぎないように語ってきた分、最後は脱力して素で書かせていただこうと思います。

まずは、『僕らに太陽がなくても』プロジェクト、完走おめでとうございます。あえて「素人の寄せ集め」という言い方をしてみますが、それでいてこれですから、見事としか言えない完成度でした。

このプロジェクトが始まったとき、私は率直に悔しかったです。冒頭にも書いたとおり、私は「HEARシナリオ部」としてシナリオ活動を行っており、HEAR;の中において「シナリオを提供して音声化する」という流れを作り上げたのは我々だという自負もありましたから、それを上回るような大変大がかりなプロジェクトが、私の関わらないところで動き出してしまったことが、ただただ悔しかったです。「私の関わらないところで」が一番重要で、もっと本質に迫るなら、「面白そうなことを私抜きでやるなよ!」と思っていました笑

しかし、自分主導でないプロジェクトに混ざる気もさらさらないわがままで面倒な私は、一旦静観してみることにしました。悔しさのあまり、なんなら内心で、「絶対聴くもんか!」と思っていました。でも、いざ完結を迎え、思ったのです。

「30歳を控えたおじさんが、そんな大人げないことでいいのか」

と。

おじさんの強みは、恥じらいを捨てて開き直れることです。プライドを捨てられることです。10代後半から20代前半にかけての尖り散らしていた私なら絶対に無視していたはずですが、時は2021年の終わり、来年には30歳です。そんなおじさんのちんけな恥じらいなど犬も食わないので、逆に徹底してレビューすることにしました。

良ければ褒め、悪ければ指摘する。公平に評価し、良い部分を取り入れよう。――そうして書き始めたのがこの投稿です。

聴きながら書いたというのもありますが、7時間弱かかりました。そういえば夕飯を食べるのも忘れました。でも不思議と満足感があるくらい、良い作品でした。没頭してしまう力を持った作品でした。だからこそ、やっぱり悔しいです。シナリオクリエイター、物書きとして、良い物を書かれると悔しいです。でも尊敬しています。脚本を手がけられたうゐ春菜さんだけでなく、関わった全てのクリエイターを尊敬しています。素晴らしかったです。拍手を送らせてください。

率直に言うなら、このクオリティに準ずる脚本を書けと言われて書ける気は全くしません。全くしませんが、書きたいとは思います。おもしろいものを生み出したい。そんな、クリエイターとしての原初の欲求を高めてくれた良い作品でした。これが、今はまだマイナーで小さくて貧弱なHEAR;から生まれたと思うと、可能性を感じずにはいられませんでした。

ボイスドラマを聴いてもいないのにここまで読んだ物好きはいないと思いますが、もしまだ聴いていなければ、ぜひ聴いてください。あなたがクリエイターならば、その血を沸かせてくれることでしょう。

私もいつか、追いつけるような作品を作れるよう、頑張りたいと思います。

ふぁいん/柚坂明都

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