夜空のステラマジカ

◆シーン1:小学校の教室 「兄弟喧嘩」

SE 学校のチャイム
SE 下校の音楽
SE 帰宅する生徒たちのざわめき

弟「……嘘? 嘘ってどういうこと? にーちゃん」

兄「だから言ってんだろ、あったまわるいなあ。願いが叶うお祭りなんて嘘なんだって」

弟「で、でも、先生が言ってたんだよ? 今度のお祭りは願いが叶うお祭りだって。だから僕……」

兄「だーかーらー! そういうふうに言われてるだけなの! 本当に叶うわけじゃないんだって」

弟「でも先生が……」

兄「先生よりにーちゃんを信じろよ! ……もういいから。とにかく帰るぞ! そんな紙捨てろって」

SE 紙を奪う

弟「あ、やめて!」

兄「……んん? お前この願いって……」

弟「返して! 返してよ!」

兄「いや、でもお前こんなのますます叶うわけが……」

弟「うー! もう!! にーちゃんのばかあああ!!」

兄「あ、おい! 待て! おい!」

SE 教室のドアを勢いよく開ける

SE 走る(フェードアウト)

◆シーン2:公園 「手品師との出会い」

SE カラスの鳴き声(フェードイン)
SE ブランコ(金属のキィという音)

弟「(ため息)」

SE 車が通り過ぎる(日常音ならなんでもいい)

弟「……本当に、叶わないのかな」

エスト「叶えたいことがあるのかい?」

弟「うわあ!」

SE ガシャーン(鎖の音)

弟「い……てて」

エスト「大丈夫かい? ほら、手を貸してあげよう」

弟「あ……うん、ありがと。――じゃなくて! いきなりびっくりさせないでよ!」

エスト「ああ、これは失敬。まさかそんなに驚くとは思わなくてね。僕もびっくりしたから、おあいこってことで許してくれないか」

弟「まあ……わざとじゃないならいいけど」

エスト「確かに僕はびっくりさせるのが得意だが、今のはわざとじゃないさ。星に誓うよ」

弟「ふーん……そうなんだ。……じゃあ、いいよ」

エスト「ありがとう、少年。君が話の分かる人間で良かった。聡明な君と、世界に感謝を。お礼にこれをあげよう」

SE ポップな破裂音

弟「わあ……!」

エスト「飴がお嫌いでなければどうぞ」

弟「いいの!? ていうか何今の? どうやったの? すげー!」

エスト「ふふ、良かった。こういうびっくりはお気に召したみたいだね」

弟「飴うめー!」

エスト「ははっ! 味もお気に召したようで何よりだよ。良かったら、あっちのベンチに座ってお話しないかい?」

◆シーン3:公園(ベンチ) 「待ち合わせ」

エスト「それで? 何か、落ち込んでいるみたいだったけど?」

弟「……」

エスト「遠慮しなくていい。僕たちは友達でもなんでもないだろう?」

弟「友達じゃないと、遠慮しなくていいの?」

エスト「もちろんさ。友達には優しくしないといけないだろう? その点僕は全くの他人。何の後腐れもないってわけさ」

弟「……なんか、難しい言葉をいっぱい知ってるね。僕と同じくらいに見えるのに、大人みたいだ」

エスト「たくさん物語に触れていてね。その影響だろう。時間があれば、君も空を見るといい。できれば夜空のほうがいいな」

弟「お話を読むなら、本じゃないの?」

エスト「もちろん本にもお話はいっぱい載っているだろう。だけど夜空にもね、物語はたくさんあるんだ。それに触れるんだよ」

弟「もしかして、星のこと?」

エスト「ああ、そのとおり。星のことさ。例えばほら、あそこにひとつ、星が見えるだろう? あれは――」

弟「宵の明星! 金星、だよね」

エスト「……驚いた。君も星に詳しいんだね」

弟「へへ、実はその……僕、星が好きなんだ。でも、それでにーちゃんと喧嘩したっていうか……」

エスト「なるほど。それが落ち込んでいた理由か」

弟「そうなんだ。実は――」

エスト「分かった」

弟「――え?」

エスト「少年。今夜零時。こっそり家を抜け出せるかい?」

弟「えっ! 零時って、十二時のこと? 夜の?」

エスト「そうさ。日本標準時間で午前零時。この公園の、あのジャングルジムで待ち合わせだ。そこで君の落ち込んでいた理由を聞く。どうかな?」

弟「でも……お母さんに見つかったら怒られるよ」

エスト「無論だ。だからこっそりなのさ。難しいかい?」

弟「うーん……そういう君は大丈夫なの?」

エスト「僕? ああ、もちろん僕は大丈夫さ。君も見たろう? 僕の手品を。こっそり抜け出すなんてわけないさ」

弟「んー……やっぱり駄目だよ」

エスト「どうしてだい?」

弟「僕と君は他人なんでしょ? 知らない人についていったら駄目だって言われてるもん。だからきっと、待ち合わせも駄目だ」

エスト「他人だが、知らない人ではないだろう? 君は僕と、もうこうして知り合ったじゃないか」

弟「そういうのは、ヘリクツって言うんだ。よくにーちゃんがそれで怒られてる」

エスト「……ふふ、そうか。君はやっぱり聡明だね。気に入った」

SE フィンガースナップ(指パッチン)

エスト「少し早いが、君を星の旅に招待しよう」

◆シーン4 夜空 「約束」

SE 風の音

弟「うわあああああああ!」

エスト「ははっ! 少年! どうだい、空を飛んでみた感想は?」

弟「なにこれなにこれなにこれ!! 体が、浮いて! 飛んで……ッ! 止めて止めて止めて!!」

エスト「はははっ! 怖がることはないさ。身の安全は保証するよ。それに……言われずとも、そろそろ到着だ」

SE フィンガースナップ(指パッチン)

エスト「……少年。さあ、怖がらずに目を開けて。見てごらん」

弟「う……うぅ……え……? こ、これって……?」

SE キラキラ

弟「星が……星がいっぱいだ!」

エスト「本当は、夜中になればもっと見やすいんだけどね。どうだい。これもお気に召してもらえたかな?」

弟「す、すごい! すごいよ! なんだこれ! 僕、飛んで……というか、息、苦しくない! 何これ、ほんとうにどうなってるの!?」

エスト「おや、酸素のことまで。本当に君は聡明だ。まあ何、これもひとつの手品ってやつさ」

弟「こ、こんなの! 手品っていうか魔法だよ! 君、魔法使いだったんだ!」

エスト「いいや、僕は手品師さ。ただのね。それより、どうだろう。こんなに大きな星空を見れば、君の悩みも吹き飛んだんじゃないかな?」

弟「うん! うん! だって、願いが叶ったもの!」

エスト「願い? お兄さんとの喧嘩で悩んでいたんじゃなかったかい?」

弟「そうなんだけど……その、僕、今度のお祭りで願いが叶うって聞いて、天体望遠鏡がほしいって書いたんだ」

エスト「ほう。望遠鏡か」

弟「うん。その、星がもっと近くで見たくて。でも、そしたらにーちゃんに叶うわけないって言われて……なんでそんなこと言うんだって思って……」

エスト「それが喧嘩の原因か」

弟「うん……」

エスト「話が聞けて良かったよ。僕としては、同じ星好きのよしみで君を元気づけられればと思っていたんだけど、願いを叶えることまでできたみたいで本当に良かった」

弟「うん! 本当にすごいよ! ありがとう!」

エスト「どういたしまして。それにしても、人の願いを否定するなんて、ひどいお兄さんだね」

弟「うーん……」

エスト「少年?」

弟「あ、いや……違うんだ。にーちゃんは優しいんだ、本当は。いつも優しくしてくれる。でも、優しいのに、だから、なんでだろうって……」

エスト「ふむ……」

弟「喧嘩だって、久しぶりにしたし……にーちゃん、ほんとに、なんであんなこと言ったんだろう……?」

エスト「少年」

弟「え、なに……?」

エスト「僕の名前はエスト。エスト・ガラクシア。折り入って、君にお願いがある」

弟「僕に……?」

エスト「改めて、一週間後の零時、僕といっしょに星を見てくれないか」

弟「え……?」

エスト「君と星空を楽しみたかったが……どうやら残念なことに、今日の君はどうしても、別のことに気を取られてしまうみたいだ。これでは僕の気が済まない。きちんと解決して、一週間後、またいっしょに星を見てほしいんだ」

弟「で、でも、だから知らない人との待ち合わせは……」

エスト「だから今、名乗ったろ? 僕の名前はエストだ。友達になろう、少年」

弟「エスト……」

エスト「きちんと事前に説明しておけば、お父さんやお母さんも怒らないはずだ。友達の家に泊まると言っておけば良い。そうして、夜通し星を眺めよう」

弟「それは……確かに、それなら、なんとかなる……かも……」

エスト「そうだろう? だから、約束してくれ少年。今から帰って、お兄さんに理由を聞くんだ。なんであんなことを言ったのか、優しいお兄さんなら何か理由があるに違いない。きっと、ただ意地悪したわけじゃないはずだ。そうだろ?」

弟「理由……」

エスト「僕は、君とまた星が見たい。友達と、気兼ねなく星が見たいんだ。真夜中の空に、燦然と輝く満天の星を!」

弟「エスト……。わ、分かった! 僕は――!」

◆シーン5 自宅 「理由」

SE 玄関のドアを開ける

弟「た、ただいまー……」

SE 兄が走ってくる(室内)

兄「お前! どこ行ってたんだ! 心配したんだぞ!」

弟「ご、ごめん、にーちゃん」

兄「まったく……。俺からかーちゃんに、お前が出て行った話はしちまったからな。怒られるだろうけど、我慢しろよ」

弟「う、うん……それで、かーちゃんは……?」

兄「近所を探し回ってる。お前は手洗いうがいして、家の中で待ってろ。俺は今からかーちゃんを呼びに……」

弟「ま、待って! にーちゃん!」

兄「ん?」

弟「あ、その……ごめん。ほんとに、ごめん」

兄「……最初に聞いた。謝るのは一回で十分だ。あとはかーちゃんに謝ってくれ」

弟「そうじゃなくて……その、教室で、ばかとか言って、ごめん……」

兄「……それを言うなら、俺もごめん。頭悪いとか、勢いで言っちまった。あと、お前のお願いも。もっとうまい言い方があったかなって、反省した。俺はただ、お前にがっかりしてほしくなかったから……」

弟「がっかり……? どういうこと? やっぱり願いは叶わないの?」

兄「ああ、叶わない。あのお祭りにそんな力は、多分ない。少なくとも、絶対叶うものではないんだ」

弟「そんな……でも、先生が言ってたし……」

兄「その先生にも確かめたんだ。実はその……一昨年、さ。お前と同じ四年生のとき、俺も授業で同じことを先生に教わって、試したんだ。お願い」

弟「そうなの!?」

兄「ああ。でも、ちっとも叶わなくて、それで、先生に確認したら、そういう言い伝えがあるのは本当だって。でも、必ず叶うわけじゃないって。だから、俺、お前も同じことになったらヘコむだろうなって思ったから、それで……」

弟「にーちゃん……」

兄「それに、お前の願い見たけど、天体望遠鏡だっけ? あんなの、ますます叶わないよ。願い先が間違ってる」

弟「願い先?」

兄「ちゃんと授業聞いてなかったのか? お祭りで叶う願いは、人と人との縁。友達とか、家族とか、こ、こ、恋人とか? そういうやつなんだって」

弟「えっ! そうなの!?」

兄「そうさ。だから、ああいうお願いは、お祭りじゃなくてちゃんとサンタさんにすべきだ。サンタさんならお祭りと違って信頼できるだろ? 何しろ毎年来てるからな!」

弟「そっか! にーちゃん、あったまいい!」

兄「だろ? 安心しろ、にーちゃんもいっしょにお手伝いして、サンタさんポイントためてやるからな」

弟「うん! ありがとうにーちゃん!」

(ここからフェードアウト)

弟「ところで、じゃあにーちゃんは何をお祭りでお願いしたの?」

兄「ば、馬鹿! そりゃお前……なんでもいいだろ!」

弟「えー、教えてよ」

兄「いや、だからそれはあの……」

(兄弟の会話をアドリブで)

(そんな兄弟を空から眺めるように、フェードアウト音声に重ねて)

エスト「……ふふ、楽しみに待っているよ。一週間後、また君と星空を泳ぐのを」

———————

本作は、朗読、ラジオドラマにご活用いただけるシナリオとして、「HEARシナリオ部」の活動内で作成いたしました。

ご使用の際は、説明欄等に、以下クレジットをご記入いただけますと幸いです(記入する場所がない場合は不要です)

また、音声投稿サイト「HEAR;」での投稿時には、タグに「夜空のステラマジカ」もしくは「HEARシナリオ部」と入れていただきますと、作成いただいたコンテンツを見に行くことができるので嬉しく思います(HEAR;ユーザー以外の方は特に対応不要です)

○クレジット
シナリオ作者:柚坂明都(ふぁいん) https://hear.jp/finevoices
シナリオ引用元:それはまるで大空のような https://fineblogs213.com/stella-magica-in-the-night-sky

コメント

タイトルとURLをコピーしました