HEAR

自作小説

パパを嫌いでいて

やあ、アニー。十六歳の誕生日おめでとう。 本当なら何もかもを放り出して君と一緒に過ごしたいのだけれど、あいにくとウチの上司が、そのまた上司から招待を受けてしまってね。パパもそれについていかなきゃならないんだ。 もちろんパパも、“愛する娘の誕
自作小説

さすが

V社の会議室で、男たちがディスプレイへと視線を注いでいる。半円を描くように、ずらりと席についているのは、社長をはじめとした首脳陣だ。 ディスプレイの横では、きっちりとしたスーツに身を包んだ四十代くらいの男が、よく通る声で朗々と、誇らしげにプ
自作小説

キセキ不動産

ごつごつとした地面の感触が、座面から振動を通して伝わってくる。大きめの石を踏み越えたのか、がったん、と大きく車体が揺れた。 窓の外には、手を伸ばせば届く距離まで、枯れ枝が伸びている。実際、いくつかは車にぶつかっているようで、前進するのにあわ
自作小説

便利なキッチン

郵便受けに入っていたチラシの中に、興味深いものを見つけた。「あなたも未来を体験してみませんか……スマートハウス?」 それは、ある不動産メーカーによるモデルハウスの案内だった。こういう不動産系のチラシは飽きるほど見てきたが、スマートハウスとい
日常

HEAR;ユーザー発オリジナルボイスドラマ『僕らに太陽がなくても』徹底レビュー

「HEAR;」は、ルノハ株式会社が2019年12月にリリースした音声投稿サービスである。リリースから2年が経過しているものの、その他類似の音声投稿サービスと比べると知名度は低い。サービス内容、ユーザー数ともに、まだまだ走り出したばかりのサー
創作

白いセカイのあしあと

作詞・作曲:YUKI好きだって気持ちに おされるように私はこの道を 歩き出したの移っていく時間の中 公園でひとりぼっち白い息と心を吐き出す楽しくて楽しくて 輝いていたセカイ光が増したのは あなたがみつけてくれたから始まりの雪 あの日降り出し
自作小説

変わらないもの

「あっ!」 突然台所から、よく通る叫び声が聞こえてきた。立ち上る良い香りを感じながら、呑気にソファでスマホを見ていた俺は、慌てて声のもとへと急行する。「どうした!?」 先ほどまで、とんとんとん、と小気味いい音を立てながら、包丁の音が響いてい
自作小説

異世界転移の方法

ようこそいらっしゃいました、お客様。わざわざこんな田舎の研究所までご足労いただき、まことにありがとうございます。 わたくし、当研究所で所長を務めております、左衛門三郎時近さえもんさぶろうときちかと申します。ええ、珍しい名前でしょう? この長
自作小説

国民の意思

人気配信者のストリーミングを呑気に眺めていると、合成音声が耳元で告げた。『まもなく、スケジュールされたウェブミーティングのお時間です』 どうやら気づかないうちに、約束の時間になったらしい。俺は、一秒目を閉じることで動画を止め、視界を確保する
自作小説

スモールトラベル

目が覚めた私は枕元を探った。スマホの手触りを感じて手に取れば、時刻は六時半を過ぎたところだった。確かに昨日はやたらと眠くて、帰宅早々眠ってしまったけれど、その結果がこの目覚めなら、結構悪くない気がした。 こんなにすっきりと目覚めることができ
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